logo

薬剤師によるがん患者さん向け情報サイト

main visual main visual

公開:2022年12月21日
更新:2024年4月

がん患者さんと薬剤師の円滑なコミュニケーションのために
~患者さんが聞きたいこと、薬剤師が聞きたいこと~

 近年のがん治療は、医師、薬剤師、看護師などの医療スタッフがチームとなって治療に取り組む「チーム医療」が普及し、薬剤師は患者さんにとって以前よりも身近な存在になってきたようです。今後も患者さんと薬剤師とのコミュニケーションの機会は増加し、その対話の中でより多くの困りごとを解決していくことが期待されます。
 そこで本座談会では、がん専門薬剤師の東先生と、自らががん体験者であり、同じキャンサーサバイバーの方々の社会生活支援に関する様々な事業を展開するキャンサー・ソリューションズ株式会社の皆さんに、薬剤師・患者さんの立場からお互いに聞きたい疑問・質問についてお話しいただきました。それぞれのご経験に基づき、率直なご意見を伺うことができました。

東先生とキャンサー・ソリューションズの皆様

(取材日時:2022年3月23日(水) 取材場所:パレスホテル東京)

東京医科大学病院 
薬剤部主査 がん専門薬剤師 東 加奈子 先生

キャンサー・ソリューションズ株式会社
代表取締役社長 桜井 なおみ さん
駒形 千鶴子 さん
白浜 若菜 さん
蛭間 健太郎 さん

東先生とキャンサー・ソリューションズの皆様

第2回 薬剤師の立場から患者さんに聞きたいこと

 第2回では、今日のチーム医療の中での薬剤師の役割と、薬剤師の立場から患者さんに聞きたいこと・聞かれることを中心にお話を伺いました。

がんチーム医療の中の薬剤師の役割とは

新薬の知識について随時アップデートしていく必要があり、のびしろのある役割

東 加奈子 先生

東先生 今のがん治療では、医師・看護師・薬剤師など多職種で構成されるチームで患者さんに医療を提供しています。薬剤師には、患者さんやご家族への服薬説明や、薬物療法による副作用への対処(支持療法薬の提案)、患者さんが適切な薬剤情報にアクセスできるように援助を行うことなど、より専門性をいかした役割が求められています。がん領域においては、次々と新しい薬が登場するので、知識のアップデートもかかせません。そういったことから、薬剤師のスキルアップが、チーム医療を通して患者さんのケア向上に直結すると考えていますし、現状ではまだまだのびしろのある役割だと感じています。
 現在の日本では米国などと比べると薬剤師1人が多くの患者さんを担当しています。例えば1病棟1薬剤師という原則のもと、当院では薬剤師1人が40名弱の入院患者さんを担当し、外来でも毎日20名程度の患者さんを担当します。今後、日本ではさらなる高齢化少子化社会を迎え、医療を受ける方がより一層増えることに伴い、一人当たりの薬剤師が担う患者さんが更に増加すると予想されます。その様な背景から、日本独自の薬剤師の役割が明確になってくるのではと思います。

東 加奈子 先生東先生

治療開始から副作用のつらい時まで寄り添ってくれる存在

蛭間さん 入院中は、薬剤師さんが必ずどこかの時間にベッドサイドに来てくれて、雑談して気分転換になりました。今日は来ないのかなと思っていたら、仕事終わりの遅い時間に来てくれたこともあり、嬉しかったです。

東先生 患者さんの困っていることや、家に帰ってからやりたいことなど、雑談の中に患者さんの真意が入っていることが少なからずあります。それによって治療の目標設定が変わることもありますので、そういった機会を通して患者さんのお考えを確認したいのです。

蛭間 健太郎 さん

蛭間さん 副作用がしんどい時にも一言かけてもらうと安心できました。治療開始の段階で薬剤師さんが頻繁に来てくれて、本当にしんどい時にも顔を出してくれるのはありがたいなと思います。面識もなく急に「どうですか」と聞かれても答えにくいと思うのですが、私の場合は、治療開始前から薬剤師さんが来てくれていたので、「いや、なかなかしんどいですね」などと率直に話すことができました。

蛭間 健太郎 さん蛭間さん

東先生 本当に辛くなる前に、早めに呼んでいただけると嬉しいですね。

薬剤師の立場から患者さんに聞きたいこと

まずは困っていることについて。そして、できれば嬉しかったことも教えてほしい。

東先生 必ず聞きたいことは、今、何に困っているかということです。もう一つは、嬉しかったことなども知りたいです。悲しいことやつらいことがある中で、嬉しかったことや、やり遂げられたこともあると思うので、その気持ちを共有し、理解して、生活者としての患者さんを支えていくのが目標です。治療中は病院が患者さんにとっての大切な居場所ですが、患者さんは本来、家に戻って社会生活をする人であることを外来薬剤師になって強く感じました。治療の卒業まで見届けられると、自分も伴走者としてうまく支えられたのではないかと思えます。

患者さんからよく聞かれること

「抗がん剤が怖い」。その気持ちを一緒に受け止めていく。

東先生 患者さんから聞かれることは多種多様ですが、やはり病気のことを中心に治療や副作用についての相談が最も多いです。それらがうまくコントロールできてくると、今度は生活に関する質問に変わってきます。例えば家族のことや、仕事のことなど社会的な内容になります。つまり、その方の治療のフェーズによって質問の内容が変わってくると私は感じています。

桜井さん ごくシンプルに、「抗がん剤が怖い」と言う方はすごく多いですね。「お薬が怖いんです」と言われた時に先生はどのように対応していますか?

東先生 私は「怖いですよね」と、その患者さんの気持ちを、言葉で一度受け止めています。実際、薬剤師からみても抗がん剤は怖いものです。抗がん剤は、患者さんの生命を延ばすため、QOL(生活の質)を上げるためのものではありますが、一方で重大な副作用が起こり得る薬剤です。ですから患者さんや一般の方からすれば、未知の怖い薬剤として不安になるのは当然だと思っています。

白浜 若菜 さん

白浜さん その「怖い」という気持ちを薬剤師さんに受け止めてもらえるだけで、怖さが100%無くなるわけではないけれど、かなり減るのではないかと思います。

白浜 若菜 さん白浜さん

東先生 そうですね。「怖い」という気持ちをまず受け止め、患者さんの心の準備ができれば計画通りの治療に入れますが、その巨大な怖さを解消しないまま治療を始めるのはよくありません。患者さんごとのいろいろな抗がん剤についての怖さがあると思いますので、それを一度受け止め、その方の不安感がどこにあるのかということを確かめて、一緒に対処について考えていくことが大切だと思います。

患者さんと薬剤師とのコミュニケーションをさらに向上させるために

桜井 なおみ さん

「対人」として関わることで、患者さんにとって生涯頼れる存在へ

桜井さん 薬剤師さんも、対人のトレーニングをするようになって大きく変わってきたと思います。「対薬」ではなく「対人」という観点から、薬剤師として薬学的な知識に基づいたサポートをしてくれます。例えば、その方の普段の生活の中で、薬剤が投与された後にどんなことが影響するのかといったことです。病院薬剤師さんと地元薬局の薬剤師さんとの連携が進んでいますが、「薬」ではなく「人」を中心に据えることで、本当の意味で連携ができるのではないかと思います。いずれは「あなたは20年前にこんな薬を使いましたよね」といった情報も蓄積できるようになるでしょうし、誰しも薬に無縁ではいられないでしょうから、薬剤師さんは生涯頼りになる心強い存在になると思います。

桜井 なおみ さん桜井さん

支援者の一人として思い出して欲しい

東先生 患者さんの意思決定のための一支援者でありたいですし、困った時や心配な時は薬剤師を思い出して声をかけてください。薬剤師を絶対に頼らなくてはならないというわけではありませんが、患者さんにとって支援者は一人でも多い方がいいと思います。患者さんは、医師、看護師、薬剤師、家族、職場の同僚に話すことはそれぞれ違うかもしれませんが、その全てが患者さんの真実と思っています。そうしたさまざまな側面があった上で、チームみんなで話し合って治療方針を決めていくことが大切だと思いますので、チームの一人として薬剤師がいることを頭の片隅にでも置いていてくだされば嬉しいです。

 薬剤師さんは生活者としての患者さんの気持ちに寄り添い、患者さんも薬剤師さんを自分の支援者の一人として受け止めることが、お互いのコミュニケーションを深める第一歩ということですね。
東先生、キャンサー・ソリューションズの皆さん、貴重なお話をありがとうございました。


東先生とキャンサー・ソリューションズの皆様