logo

薬剤師によるがん患者さん向け情報サイト

main visual main visual

公開:2022年12月21日
更新:2023年8月

がん患者さんと薬剤師の円滑なコミュニケーションのために
~患者さんが聞きたいこと、薬剤師が聞きたいこと~

 近年のがん治療は、医師、薬剤師、看護師などの医療スタッフがチームとなって治療に取り組む「チーム医療」が普及し、薬剤師は患者さんにとって以前よりも身近な存在になってきたようです。今後も患者さんと薬剤師とのコミュニケーションの機会は増加し、その対話の中でより多くの困りごとを解決していくことが期待されます。
 そこで本座談会では、がん専門薬剤師の東先生と、自らががん体験者であり、同じキャンサーサバイバーの方々の社会生活支援に関する様々な事業を展開するキャンサー・ソリューションズ株式会社の皆さんに、薬剤師・患者さんの立場からお互いに聞きたい疑問・質問についてお話しいただきました。それぞれのご経験に基づき、率直なご意見を伺うことができました。

東先生とキャンサー・ソリューションズの皆様

(取材日時:2022年3月23日(水) 取材場所:パレスホテル東京)

東京医科大学病院 
薬剤部主査 がん専門薬剤師 東 加奈子 先生

キャンサー・ソリューションズ株式会社
代表取締役社長 桜井 なおみ さん
駒形 千鶴子 さん
白浜 若菜 さん
蛭間 健太郎 さん

東先生とキャンサー・ソリューションズの皆様

第1回 患者さんの立場から薬剤師に聞きたいこと

 患者さんと薬剤師の距離が近くなったとはいえ、心おきなく相談ができているという患者さんはまだ少ないかもしれません。第1回では、がんを経験された方の立場から、薬剤師のイメージや薬剤師へ聞きたかったことを中心にお話しを伺いました。

患者さんからみた薬剤師のイメージとは

「あまり接点がない」というイメージもあれば、「親身になってもらえた」という経験も

白浜さん チーム医療が普及してきて、薬剤師さんもチームの中にいるという感覚はあり、認識としては身近な存在ではあります。しかし、実際にはあまり接点がなかったというのが正直なところです。

桜井 なおみ さん
桜井 なおみ さん桜井さん

桜井さん 私も“控えめな人”というイメージを持っています。もっといろいろなことを聞きたかったのに、医師、看護師、薬剤師という順でサード・パーソン(3番目)の位置になりがちであると思います。本来なら手術後などはファースト・パーソン(1番目)になって欲しいと思っています。最近は、固形がん(血液がん以外の様々な臓器のがんの総称)の治療では入院期間が短くなり、患者さんが薬剤師さんとお話する機会も少なくなっているのかもしれません。

駒形さん 私は、入院してみて「薬剤師さんってこんなに身近にいる人なんだ」と驚いたくらいです。術後服用するお薬については薬剤師さんが説明してくれましたし、入院している周りの方にも抗がん剤の種類や他の薬剤選択のことや、発現している副作用を抑えるためにどういったお薬を使用しようか、といったお話をよくしてくれていました。

蛭間 健太郎 さん
蛭間 健太郎 さん蛭間さん

蛭間さん 私は血液のがんで、1回の入院が3~4週間にわたりました。その都度、担当の薬剤師さんが投薬スケジュールを持ってきて、説明をしてくれました。また、抗がん剤の種類によって脱毛の程度が異なるといったことも説明してくれたので、私の場合は脱毛が起こりやすい薬剤と知って、丸坊主にしてから入院に臨みました。色々と親身に寄り添っていただけたのは心強かったです。

東先生 この5年くらいまでは「薬剤師の存在が遠かった」というご感想が圧倒的に多かったように感じるのですが、患者さんの受けた治療によっても温度差があるものの、徐々に変化が見えてきました。10年後は薬剤師の存在はより近くになっていることを期待しつつ、現在の患者さんがどう思ってくださっているかが気になるところです。

患者さんから薬剤師に聞きたいこと

駒形 千鶴子 さん

「かかりつけ薬局は一つにしたほうがいいの?」

駒形さん 処方箋をもらって、保険薬局でお薬を調剤してもらう際に、がんの治療薬を受け取る薬局と、花粉症や風邪の薬を受け取る薬局を分けても良いのでしょうか?プライベートなスペースがない薬局では、自分の病気(がんについて)のことが周りにも聞こえてしまうのが心配です。だからといってがんであることを黙っていたままでは不安もあるし、後ろめたさもあります。

駒形 千鶴子 さん駒形さん
東 加奈子 先生

東先生 プライバシーに配慮した構造の薬局を見つけるのは難しいかもしれませんが、かかりつけ薬局は統一していただきたいです。薬剤のことはもちろん、困っている症状や生活に関することなど電話相談や自宅訪問などで24時間サポートしてくれる「かかりつけ薬剤師*」がいるのが理想的です。
薬剤師の立場からは、患者さんが、がんと診断を受けていることはできれば伝えていただきたいです。私が経験した例では、片頭痛の既往があり、ドラッグストアで鎮痛薬を買っていた患者さんが、2週間痛みが治まらず「鎮痛薬が頭痛に効かないのですがどうしたらいいのですか」と電話で相談を受けました。実は片頭痛であれば72時間以内に痛みが治まるので**、それ以上持続する場合は片頭痛ではないことが疑われます。ですから、別の原因があるのではないかということも危惧されます。その様な時に、患者さんからがんであるということを伺っていることは鑑別を考える上で重要となります。
病院によっては、患者さんが安心してかかりつけ薬局に戻っていただけるように、病院薬剤師が抗がん薬治療について情報提供書を作成し、かかりつけ薬局に渡すようにしているところもあります。いずれは電子化されると思いますが、このような情報提供書は患者さんにお薬手帳に貼っておいてもらい、ぜひ利用していただきたいと思います。

東 加奈子 先生東先生

*:かかりつけ薬剤師は、薬による治療のこと、健康や介護に関することなどに豊富な知識と経験を持ち、患者さんや生活者のニーズに沿った相談に応じることができる薬剤師のことをいいます。現在使用している処方薬や市販薬などの情報を把握し、薬の飲み残しや重複、副作用などがないか、1つの薬局で継続的にチェックします。
**:一般社団法人 日本頭痛学会 片頭痛(https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html)2022年7月参照

「治療薬について複数の選択肢を医師から提案されました。薬剤師さんに相談していいの?」

駒形さん 主治医から2つの治療薬を提案されることがあります。その時に薬剤師さんに相談してもいいものですか?次の受診までに考えておいて、と言われたことがあります。

東先生 ぜひ相談してください。患者さんが人生においてどのようなことを大切にしているかということを伺いながら、どちらの薬がいいかを一緒に考えます。患者さんの生活パターンに基づいて、それぞれの薬剤の副作用の特徴をお伝えし、一緒に選択肢について考えることができます。

白浜 若菜 さん

「薬剤費について聞いてもいいの?」

白浜さん 抗がん剤はとても高価な薬剤が多いですが、実際にかかる費用を聞いてもよいのでしょうか?

白浜 若菜 さん白浜さん

東先生 もちろん聞いてください。私たちは薬の専門家として薬剤の効果や副作用だけでなく、薬剤費についてもご説明します。

「苦手な味の薬があります。代替薬やその薬を飲む必要性について聞いてみたいのですが」

蛭間さん 感染症対策のため、苦手な味の薬剤を飲んだことがあり、代替薬について相談をしたかったことがあります。その時は、「初発の時に別の薬剤によりアレルギー反応が出た可能性が高いので、今はその薬剤しかない」と説明を受け、結果として代替できる薬はありませんでした。感染症予防のためではありましたが、できればそれを飲まないで済むかどうかということも伺いたかったです。

東先生 気軽に相談してください。苦手な味の薬を飲む工夫ももちろんですが、それを服用する意味も含めて薬剤師が丁寧に説明することができたケースであると思います。

「まれな副作用も心配。今の副作用がどの薬から出ているかについても聞きたいです」

桜井さん 1割や1%の人にしか現れないような副作用や、今現れている副作用がどの薬剤によるものなのかについても聞きたいです。

東先生 患者さんの希望に合わせ稀な副作用についても丁寧に説明していきたいと考えています。ただし、患者さんに出現している症状が、薬剤による副作用かどうかは1対1の紐付けではなく、その原因について、ありとあらゆる可能性を否定していき、最終的に「これは薬剤が原因ではないか」という形で突き止めていきます。この考え方を除外診断と言っています。薬剤師は診断はできませんが、副作用かどうかを考えることは医師や看護師と同様に行います。少しでも普段と違うなと感じることがあった時は、薬剤師に伝えてください。そういった情報が医師に共有され、薬の副作用なのか、病気によるものなのかといった診断につながるからです。ですから、この症状は副作用ではないかもしれないと思った時でも遠慮せずに聞いてみることが大切です。本当に薬と関係ないこともあれば、1%よりも少なくさらに言うと0.1%未満の人にしか現れないまれな副作用であることもあります。私たちは、患者さんの訴えから薬の副作用かを考え、その対処法について医師や患者さん自身にご提案しています。