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- 抗がん薬治療を受けられる患者さんに知っていただきたいこと~曝露対策に関する知識の必要性~
薬剤師によるがん患者さん向け情報サイト
公開:2022年4月15日
更新:2024年4月
近年、がんと診断され抗がん薬による治療を受ける患者さんが増えています。安心して抗がん薬治療を受けるには、患者さんご自身やそのご家族は治療に使用する抗がん薬への知識も必要です。それとともに抗がん薬の曝露対策への理解も必要です。薬剤師として長年抗がん薬治療に向き合ってきた根來寛先生に、抗がん薬の曝露について、患者さんやご家族が気をつけるべきことなどをうかがいました。
(取材日時:2021年10月25日 取材場所:ホテルフジタ福井)
福井大学医学部附属病院 薬剤部
がん化学療法管理室 主任 根來 寛 先生
抗がん薬はがん細胞に対してダメージを与える作用がありますが、同時に正常な細胞に対してもダメージを与えます。抗がん薬治療をする場合は、そのような薬の性質を知ることが大切です。
抗がん薬の曝露とは、治療中の患者さん以外の人が、抗がん薬にさらされる状況のことをいいます。曝露の経路としては、皮膚や目へ抗がん薬が付着する、抗がん薬に触れた手指で食事をする、気化した抗がん薬を吸入するなどが考えられます。
曝露によって起こる健康被害には、皮膚や目への刺激、消化器症状、頭痛など、比較的実感しやすい急性症状と、不妊、早産、流産など生殖への影響、発がん性などの長期的な影響があります。
抗がん薬は、がん患者さんにとっては「治療」というメリットがある一方、抗がん薬を取扱う医療従事者やご家族は曝露しないように十分な注意をしたほうがよいでしょう。
病院内での曝露対策は、それぞれのシーンに応じて行われます。注射や点滴などで投与する抗がん薬の場合は、主に薬剤師が準備をします。薬の瓶などの外側に抗がん薬がついている可能性を考慮して、取り扱いの段階から手袋をします。抗がん薬と輸液を混ぜる段階(調製)では、手袋に加えて、マスク、ゴーグル、ガウン、シューズカバー、キャップなども装着します。
そして、安全性が確保されたキャビネット内で調製を行います。調製された抗がん薬を治療室まで運ぶ際も、投与後の抗がん薬の瓶や器具などを廃棄する際も徹底した曝露対策に則って作業されます。薬剤師をはじめとする医療従事者が抗がん薬を取り扱う際には、マニュアルにそって曝露対策を行っています。
抗がん薬の曝露は、病院内だけでなく、外来化学療法が増えた現在では自宅でも起こり得るため、患者さんやそのご家族は、曝露のリスクが考えられるシチュエーションにはどのようなものがあるのかを知り、その対策を理解することが大事です。
ご家庭で曝露対策に注力してほしいのは、薬を投与した後の2日間です。多くの抗がん薬は投与後、48時間以内に排泄するといわれています。その間は排泄物に対する曝露対策が必要だと考えてください。抗がん薬の中には7日間排泄されることが知られているものもあり、抗がん薬ごとに個別に期間を定める場合もあります。
この期間は、尿などの排泄物に抗がん薬の成分が含まれるので、具体的には男性の場合は座って用を足すようにしていただくと、飛散のリスクを抑えられます。トイレに蓋がある場合は閉めてから水を流す、水の流れが不十分な場合は2回流すなども有効かと思います。仮に尿などとともに抗がん薬が床や壁に飛散した可能性がある場合は、すぐに拭き掃除をしてください。
衣類やタオル、シーツなどを気にされる方もいますが、特別な取り扱いの必要はありません。ただし、排泄物や吐物、大量の汗で汚れてしまった場合は、ほかの洗濯物とは別にして2度洗いするようにしましょう。
飲み薬は素手で触れないようにして飲むことが望ましいですが、常にそれを守るのは難しいかもしれません。薬を飲んだあとは、すぐに手洗いを行ってください。薬を入れるカップなどを準備することができれば、それに薬を入れて直接触れずに飲むことができます。
日常生活で介助を必要とされる方の場合は、介助する方に抗がん薬による治療を受けていることと、曝露対策が必要であることを十分に知っていただきましょう。
抗がん薬で治療されている患者さんは、家族とのかかわりについても、子どもや孫を抱っこしてよいか、食事は、お風呂は……など、いろいろと気になることがあると思います。ですが、基本的には、抗がん薬投与後の48時間を、そして排泄の場面を意識すればよいでしょう。それだけでも十分な曝露対策と思われます。先ほども申しましたが、薬によっては48時間以上体内に残存するものもありますので、治療に使われる薬については医師や薬剤師にお問い合わせください。
「完璧に対策しなければ」と気負わずに、できることから始めて曝露する機会を一つでも減らすことができればよいと思います。
患者さんに曝露対策の情報を伝えるのは大事なことですが、なかにはかえって神経質になる方もいると思います。こうした背景を踏まえて、私たち医療従事者は、情報のレベルや伝え方を精査して、少しでも患者さんやご家族の不安を減らしていくことができればよいと考えています。